私の友人に、大学からの付き合いの黒羽快斗という男がいる。彼とは選択科目がほとんどかぶっていて、興味を持つことが同じ・ということは、話が合う・ということで、行き帰りの電車がかぶっていたこともあり、自然とよく話すようになった。中森青子ちゃんっていう彼の幼なじみの話とか(おそらく黒羽は彼女のことが好きなんだろう)、日本の政治の話とか(今の内閣総理大臣はまったくもってだめなやつだ、で二人の意見は一致した)、最近できたアイスクリーム屋の話とか(彼は相当チョコアイスが好きらしい。利きチョコアイスなんてやってるらしという話には少し引いた)。その中でも、一番2人の話題に上ることが多かったのは、ニュースやワイドショーを騒がす事件・事故の話だった。自称・特技=マジックな黒羽と、自称・推理小説マニアな私だったから、学校でもその話題が白熱しすぎて他の友人達から呆れた目で見られることや、犯人の推理・推測や、事件の原因・トリックなんかで話し込んでしまって電車を乗り過ごしてしまうことが何度かあった。 
そんな流れで始めたのがなぞなぞの出し合いだった。彼の出すなぞなぞを解くのは、事件のトリックを解くのによく似ていたし、彼が絶対解けないような問題を考えるのは、トリックを考える推理小説の犯人の気分だった。 
今日も学校の最寄り駅から電車に乗り込み、心理学の教授のバレバレなカツラをひとしきり馬鹿にした後、なぞなぞタイムが始まった。 
 
「よし、、ここで問題だ。」 
「よしって…突然すぎやしませんか。」 
「大抵の事件も起こるのは唐突。おんなじようなもんだろ。ま、予告状を出してから盗みに行く・怪盗が起こす事件なら別だけどな。」 
 
私はボックス席の進行方向窓際に座る彼を見ながら、それもそうだ・と軽く頷いた。 
 
「じゃあ、問題。『宴(うたげ)』と『市営(しえい)』と『道(みち)』、これの共通点って何だ?」 
 
はぁ? と私は首を傾げる。悩む私に黒羽は「わかんねーのか?簡単な問題だぞー」とにやにやしながら野次を飛ばしてくる。うるさいなぁ、こっちはまじめに考えているのに、いらいらと指で窓枠のスチールを叩いていると「その問題、しってますよ!」と聞き覚えの無い声が横から聞こえた。声のする方を見るとボックス席で相席になっていた男の子が真剣そうな顔をして黒羽に話しかけていた。 
 
「僕、その問題しっています。」 
 
そんな男の子をまじまじと見て、黒羽は「へぇ、」と感嘆の声を上げた。 
 
「坊主、賢いんだなぁ。よし、この頭の悪そうな姉ちゃんにも分かるように答えを教えてやれ。」 
「頭の悪そうっていうのは余計です!この間のレポートは黒羽より私の方が点数良かった!」 
「あぁ、あれはオレ、手ぇ抜いてたし。」 
 
しれっと答える黒羽を睨みつけると、彼は「この姉ちゃん、頭悪そうな上に怖いだろ?」と男の子に言う。まったく、失礼な奴だ。 
 
「で、だ。、この少年に謎を解いてもらおうじゃないか。」 
「なんだか馬鹿にされている気がしますけど、まぁいいでしょう。ねぇ、君、」 
 
答えを教えてくれないかな?私が首を傾げると、男の子はもったいぶるようにコホン、と咳払いした。 
 
「簡単ですよ。五十音で、一文字後ろにずらすと『うたげ』は『えちご(越後)』に、『しえい』は『すおう(周防)』に、『みち』は『むつ(陸奥)』になるんです。だから、この3つの共通点は、一文字ずらしたら旧国名になる・です!」 
 
すらすらと答える男の子に黒羽と私は思わず拍手すると彼は頭をかいて照れくさそうにした。 
 
「でもこれ、コナンくんに教えてもらったから知ってたんですけどね。」 
「「コナンくん?」」 
「えっと、あっちのボックスに座っているメガネをかけている子がコナンくんです。」 
 
彼の示した方を見ると、なるほど・小学生の四人組がわいわいと楽しそうに電車に揺られているボックスがある。「げ、」と黒羽が呟いたのでそちらを振り向くと何故か彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 
 
「どうしたの?」 
「…いや、何でもない…それより、坊主は仲間はずれになっちゃったのか?」 
「えっと、じゃんけんに負けちゃって…本当は灰原さんが代わってくれるって言ってたんですけど、」 
 
あ、灰原さんっていうのはあそこに座っている茶髪の女の子です、という彼の言葉で再び例のボックスを見ると、黒髪の女の子の隣には大人びた茶髪の女の子が座っていた。 
そんな私達の視線に気がついたのか、彼女は正面に座るメガネの男の子(おそらくあれが『コナンくん』だ)に何か話しかた。コナンくんは面倒臭そうに頭を掻いてから、しぶしぶといったようにこちらを振り返った。私と黒羽は別にやましいことをしてはいないのに、慌てて視線を元に戻した。「どうかしましたか?」と聞く男の子に「なんでもない!」と勢い良く首を横に振って答えた声が、黒羽と被って何ともいえない気分になる。 
 
「あの、お兄さん、お姉さん、」 
 
男の子に呼びかけられて顔をあげる。お姉さん、か。照れくさいけど、悪い気はしない。 
 
「どうしたの?」 
「あの、他にも問題、ありますか?」 
 
そう聞いてくる彼の表情はきらきらしていて、その真っ直ぐな瞳に思わず笑みがこぼれた。 
 
「坊主、なぞなぞ好きか?」 
 
黒羽がそう聞くと彼は「はい!」と大きく頷いた。 
 
「そりゃ、いいことだ。将来大物になるぞ。」 
「また、根拠のないことを。」 
「根拠ならある。俺はなぞなぞが好きだ。そして俺は大物だ」 
「大した自信ですこと。」 
 
呆れてため息をつくと、黒羽は「はなぞなぞ、好きか?」と聞いてくる。その顔がやけに真剣で、思わず私は面食らって「す、すきだけど、」とどもりながら答えてしまった。『俺のこと好きか?』なんて恋人に聞かれた少女漫画のヒロインみたいだと思ってしまったのは秘密だ。 
 
「そうか、もなぞなぞが好きか。じゃあ、なぞなぞが好きな人は大物になるっていうのは間違いかもしれないな。」 
「どういう意味だ、コラ」 
「しかし、大物といえば、カブトムシのお父さんだよな。」 
「「はぁ?」」 
 
あまりの脈略のなさに私は勿論、今まで苦笑いをしながら私達の話を聞いていた男の子も間抜けな声を上げた。 
 
 
「ここで、問題。自信家で大物なのはカブトムシのお父さん。キリギリスのお母さんはいつも楽しそう。じゃ、昆虫界でいつも自然体でゆうゆうとしているのは誰だ?」 
「自然体で?」 
「ゆうゆうと?」 
 
頭をひねる私たちを見て黒羽はいつものようににやりと笑った。 
 
「分からなかったら降参してもいいんだぜ?」 
 
冗談じゃない。と私が眉間にしわを寄せたその時、「アリのお母さん。」と新しい声がした。 
 
「その問題の答え、アリのお母さん、だよね?『快斗お兄ちゃん』?」 
 
声のほうを見ると件の「コナンくん」が通路に立っていた。 
 
「どうしたんですか、コナンくん?」 
「あぁ、光彦が楽しそうだから……」 
 
「光彦」と呼ばれた男の子に聞かれて、コナンくんは笑う。そして彼は光彦くんの前・黒羽の隣に腰掛けた。 
 
「で、さっきの問題なんだけど…」 
「そうだ!コナンくん……だっけ?何でわかったの??」 
 
私が聞くと、彼は「簡単だよ、」と先ほどの光彦くんと同じように答えた。 
 
「自然体でゆうゆうとしているってことは言いかえれば有りの儘ってことだ。だから、答えは『アリのママ』。アリのお母さんだよ」 
「なるほど…」 
 
私がそうつぶやくとコナンくんはまた笑った。今度の笑いは大人っぽい、にやりとした、ニヒルな笑いだった。 
 
「じゃ、光彦がお世話になったから、オレから問題。」 
「え?コナンくんが問題出してくれるの?」 
 
私が聞くと、「うん」と彼は頷いた。 
 
「怪盗キッドは『夕日の泪』を盗めませんでした。」 
「あ、先週新聞に載ってたやつですね!」 
 
光彦くんが声を上げると、コナンくんは目で肯定の意を示した。 
 
「でも、怪盗キッドは次になにを盗むかもう決めているようです。」 
 
私達の表情を伺うように、彼はぐるりと見回した。 
 
「ヒント、それはあやしいものではありません。」 
 
コナンくんの人差し指が立つ 
 
「それは、下にあるものです。」 
 
続けて中指。 
 
「どこの家にも必ずあります。」 
 
薬指。 
 
「さて、怪盗キッドが盗もうとしているのは何でしょう?」 
 
彼がそう言い切ったとき、電車が止まった。「あ!コナンくん!もう降りないと!」光彦くんの言うように、先程の小学生達が2人の事を呼んでいる。 
 
「答え、聞けなかったなぁ、残念。」 
 
私が呟くと「きっとまた会えるよ」とコナンくんは笑った。 
 
「今度会うときまでに答え、考えておいてね『快斗お兄ちゃん』?」 
 
そう、彼が来てからずっと黙っていた黒羽に声をかけ、にっこり笑ってからコナンくんは光彦くんを連れて電車を降りていった。苦笑いする黒羽。ドアが閉まって電車が発進してから気づいた。そういえば私と黒羽は彼等に名前を教えていない、…もしかして、 
 
「黒羽さ、コナンくんと知り合いだったの?」 
「……まぁな」 
「言ってくれればよかったのに。」 
 
黒羽は「だって、」と唇を尖らせた。その顔が面白くて思わず吹き出したら彼は拗ねて黙り込んでしまった。