Treasure楽器ケースに宝物つめて

#04 Dance hall冬のダンスパーティー

 そうして私は、お城のダンスパーティーで彼と再び出会う。

 アーサー王子に誘われて入団することになったグランヴェル城の宮廷楽団の人々は暖かく私を迎えてくれた。これまでずっとソリストとしてオーケストラの人々の前に立って演奏していたから、こんな風にオーケストラの中に入って演奏することになるだなんて夢にも思わなかった。『人と合わせる』ということを知らず戸惑っていたある意味傲慢で世間知らずな私に、優しく時に厳しく丁寧に楽団の作法を教えてくれた上に、小指をなるべく使わず弾けるように楽譜を少し手直ししてくれたコンサートマスターには多分一生頭が上がらない。

 そんな中、新人団員のお披露目も兼ねてお城のダンスパーティーのアンサンブル選抜メンバーに選ばれた。今回はヴァイオリン二本・ヴィオラ・チェロの小編成だ。ずっと一人でやってきたから、パート譜なんて初めて見た。ソリスト時代もオーケストラについての知識は幾度か共演するうちにある程度身についていたが、少人数での室内楽は私にとって未知の領域だから少しウキウキしてしまう。こんな、新しいことが楽しいだなんて気持ち、しばらく忘れていた気がする。

 今回のダンスパーティーはアーサー王子の主催で、騎士団の若い騎士たちや、お城で働く人々、そして賢者の魔法使いたちが招かれるもので、大臣やと言った国の偉い人たちは来ないからそこまで緊張しなくても大丈夫、と言われたものの、初めての場ではそうもいかない。数曲演奏しただけで、これまでの演奏会では絶対に痛くなったりしなかった腕や背中の筋肉が悲鳴を上げていて、己の身体がカチコチに硬くなっていたことに気がつき思わず苦笑した。

 次の曲はヴァイオリンの出番はないから私は休憩だ。楽団の仲間たちの側を離れて会場の隅でゆっくり水を飲んでいると、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。……ラスティカだ。賢者の魔法使いも招かれていると聞いていたから、ここに来ているだろうとは思っていたが、まさか話ができるとは思わなかった。

「こんにちは、

「こんにちは、ラスティカ。……ありがとう」

「おや、なんの話だい?」

「いいえ、なんとなくお礼が言いたくなっただけなんです、気にしないで」

 彼の顔を見たら、そんなつもりはなかったのに思わずお礼を言ってしまった。当然、彼は不思議そうな顔をする。それで良い、それが良い。一人のヴァイオリン奏者の人生を変えてしまったことを、あまり大袈裟に考えて欲しくないのだ。

 そうしているうちに、次の曲が始まる。仲間の演奏に耳を傾けていると「そういえば、」とラスティカが声を上げる。

「さっきの曲、聴いていたよ。今日はもうの演奏は終わりなのかい?」

「あ、今はヴィオラとチェロだけの曲だけど、次の曲は私の番です」

「素晴らしい、君の演奏をみんなが楽しみにしているよ

 そう言って優しい魔法使いは微笑んだ。

 もう私の楽器からは雷のような音は鳴らない。

 だけど、あの時彼と演奏したあの曲は永遠に私の中で鳴り響き続けている。私も心のままに弦を鳴らせば、人の心を動かす音楽を奏でることができるんだって、今なら分かる。

「楽しいですね、ラスティカ」

 小さすぎる呟きは賑やかな音楽とお喋りにかき消されてきっと彼には届かない。だけど、こちらを向いた彼が穏やかに微笑んでくれたから、私はまた弓を構えて音楽を奏でることができる。なんて幸福なんだろう。

 嗚呼どうか、私に大切なものをくれた魔法使いにも、音楽の祝福がありますように。

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