あれから随分と長い時が過ぎた。随分と長い間には会っていないが、『よく迷子になる陶器売り』の話はたまに耳にするから石になってはいないのだろう。……此度の《大いなる厄災》の後の彼女の動向は定かではないがをら近づき過ぎた《大いなる厄災》の影響で壊れかけた世界の中、シャイロックは今、魔法舎で暮らしている。
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空が白みはじめている。ベネットの酒場はもうすぐ店じまいだ。賢者と一緒に店の手伝いに来ていたムルは、すぐに皿洗いに飽きてしまい、ベリーの種の数を数えはじめ、今はそれにも飽きて椅子の上で丸くなりすやすやと寝息をたてている。
「賢者様、こんな時間までお手伝いありがとうございます。そろそろ外の看板を下ろしましょうか。ほら、ムルも起きて」
シャイロックがそう言うとほぼ同時にカランとベルが鳴りドアが開いた。
「……?」
もう閉店の時間だと断りを入れる前に店主に名を呼ばれた魔女はシャイロックの顔を見てパッと表情を輝かせる。
「シャイロック! 嗚呼、よかった。店に来てもいつも閉まっていて誰も道を教えてくれる人がいないから、しばらく西の国を彷徨っていたんです」
「貴方、また迷子になっていたんですか?」
「困ったことにそうみたいなんです」
「……やれやれ」
何故でしょう? と首を傾げる魔女をシャイロックは眉を下げて店内に招き入れ、戸惑う賢者に声をかける。
「賢者様、大丈夫ですよ。彼女は、古い知り合いです。、こちらは」
「なるほど、貴方が新しい賢者様ですね。私は」
は目尻を下げて会釈する。
「それにしても、どうしてまたこの店に?」
「月のせいでしょうか、不安でたまらなくて……、ここは安心するんです、シャイロックは揺るがないし、変わらない」
そう言ってはシャイロックの手を取った。
「でももしまた迷った時は、私がまた手を引きますから、その時は安心してくださいね」
「おやおや、それは秘密にしてくれるんじゃなかったのですか?」
「なになに? シャイロックの秘密の話?」
「……おやムル、起きていたんですか?」
起き上がってカウンターに今にも飛び上がりそうなムルを見ては「えっ、ムル?」と目を見開く。ああそうだ、彼女に話していないことがまだ沢山ある。
「驚いたでしょう? ゆっくり説明します。時間は、気が遠くなるほどあるのですから」