「シャイロック! 早く早く!」
ミシンの精霊に手を引かれ、魔法使いは「おやおや」と眉を下げる。
「、そんなに慌てなくても、私はどこへも逃げませんよ」
「それはわかってるわ! でもね、シャイロック、クロエが待ってるから急がないと……あっ! これ、まだ言っちゃダメなんだったっけ?」
どうやら隠し事が得意ではないらしい彼女はぱたぱたと手を振った。慌ただしい彼女の様子に、シャイロックはくすくすと笑う。
「ふふふ、今の話は私は聞かなかったことにしておきましょうか」
「そう、そうね、うーん、でも、もしかしたら大丈夫かもしれないわ」
「おや、そうですか?」
「うん、だって本当に言っちゃダメって言われたのは……、」
「! そこから先は言っちゃダメだよ!」
二人が辿り着いた先で仕立て屋の魔法使い・クロエが待っていた。「もう!」と腰に手を当てた彼は「ごめんね、びっくりしたでしょシャイロック」と言いながら椅子を勧める。
「びっくりもどっきりも好きですよ、さて、これから何が始まるんです?」
シャイロックが問いかけると、クロエはぱあっと表情を輝かせて、は嬉しそうにぴょんと跳ねた。
「あのね、買い物に行ったら綺麗な布をたくさん見つけたの!」
「このワインレッドもチェック模様もシャイロックに似合うと思って!」
次々と布が舞い上がり、シャイロックの周りをひらひらと飛び回る。ひとりでに採寸を始めたメジャーは、シャイロックの背丈を、腕の長さを、足首の太さを、計測して、鉛筆はカリカリとその数字を記録していく。その間クロエはいくつもの布をシャイロックに当てて「どれも似合うから迷っちゃうね」と笑い、は布に合う宝石やボタンを一つずつ選んでいた。
「……ところで、これから作るのは何のための服なんです?」
「さあ、なんでしょう?」
「なんだと思う?」
若い魔法使いと精霊はなんだかとても楽しそうだ。つられてシャイロックもふわふわと楽しい気分になってくる。
「『少しの間秘密』も私は好きですよ。服が完成するまで、お待ちしていますね」