Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

いつもと同じ特別な日

‪「は何がしたい?」‬
‪ そうクロエに聞かれ、ミシンの精霊は答えることができなかった。彼や賢者やラスティカのやりたいことを聞いて、そういうこともできるのかと驚くばかりだ。だって海に来るのなんて初めてだから、どういうことができるのか、どういうことをしてはいけないのか、よくわからない。普段ならやりたいことはたくさん思い浮かぶはずなのに、こんなのは初めてだ。だからなんだか落ち着かなくて、並んで並ぶ賢者とクロエの少し後ろの方を飛んでしまう。そんなの様子に気がついたのか、ラスティカが「、」と声をかけて右手の掌を広げ手招きしてくれた。‬ふわりと飛んでそこに座らせてもらう。暖かい砂の中に潜っていたせいか、その手はいつもよりもぽかぽかとしている気がする。
、何か困ったことがあった?」
「えっ、ううん、大丈夫よ!」
 そう、困っているわけではないのだ。ただ少しいつもと違うのが不安なだけ。首を勢いよく横に振ると、音楽家は穏やかな表情でにっこりと笑う。
‪「そうだな、じゃあ質問を変えよう、は今、楽しいかい?」‬
‪「楽しいわ! クロエがいて、ラスティカがいて、賢者さまもいる!」‬
‪「あはは、じゃあいつもと同じだね」
 ラスティカの笑い声にはぱちぱちと目を瞬かせる。‬「いつもと同じ……」と彼の言葉を繰り返すと、目の前の魔法使いは「そう、」と嬉しそうに頷いた。
‪「やりたい『特別なこと』はたくさんあるけれど、『いつもと同じこと』もたくさんしよう、『いつもと同じこと』があるからこそ、『特別なこと』がもっと特別になるからね」
 歌うように言葉を紡ぐ彼の‬袖口のリボンが風に揺れている。これも、『特別』だけれど、クロエが彼のための服にリボンをつけたがるのは『いつもと同じ』だ。が何も言わずにいるとラスティカは「は何がしたい?」と彼の弟子と同じように問いかけてくる。
‪「うん、……うん、あのねラスティカ、わたし、みんなと一日一緒に居たいわ」‬
‪「ふふふ、いいね、いつも通りだ」‬
‪「そして美味しいものを食べて、綺麗なものを見つけて、たくさん遊んで、それでね、」‬
! ラスティカ! 早く!」
 やりたいことの話をしていたら、不意にクロエに呼びかけられて、二人は目を合わせてクスクスと笑う。バカンスは『特別なこと』と『いつもと同じこと』を繰り返して続いていく。やることがたくさんあるから、きっとずっと楽しい。