Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

藍色のドレープ

 夏の海はドレープのように穏やかで、スパンコールのように華やかだ。ラスティカとの強い要望で浜辺に遊びに来たクロエはその眩しさに思わず目を細める。これから作る衣装のデザインのインスピレーションが湧きそうで、少しワクワクする。けれど、若い芸術家の脳裏には心配事が一つ。ここに着いた途端、波を追いかけるように駆け出した彼女と、己の横に座って穏やかに微笑む彼を交互に見てクロエは小さく唸り声を上げた。
「ねえ、ラスティカ、俺もついて来ちゃって良かったの?」
 クロエの問いかけにラスティカは「どうして?」と不思議そうに首を傾げる。そんなんで大丈夫なのかよ! と声を上げたくなる気持ちを抑えながら、「だって、最初はとラスティカ二人で海に行くって話してただろ」と波打ち際でバシャバシャとしぶきを上げながら歩き回る幼馴染みの女の子を見つめる。彼女の麦わら帽子を彩るリボンがひらひらと風で揺れて、今にも飛んでいってしまいそうだ。
、帽子に気をつけて」
 ラスティカが声をかけると「わかってるわ!」と手を振るの髪の毛は、太陽の光を反射しているせいかいつもよりキラキラとしているように見えた。ほう、と息を飲む。見たことはないが、織る前のシルクはあんな感じなのだろうか。そう思いながらが帽子についたリボンを顎の下で結び直すのを見届けて、クロエはラスティカの方に向き直る。
「で、どうなのラスティカ、」
「ええと、何の話だい? クロエ、」
「あんた全然人の話聞かないな!? とラスティカの話だよ。俺は別に一緒に来ても構わないけど、そういうのって、もっとこう、気を使った方が良いと思うよ、に」
 は多分ラスティカのことが好きだ、恋愛的な意味で、……とクロエは思っている。だからなるべく彼女に協力してあげたいし、ラスティカとが二人きりでいる時間を増やしてあげたいと思っているし、二人ならば恋人同士になったとしてもうまくやっていけるに違いないと思っている。クロエにとって幼馴染みである二人がそういう関係になってしまったらクロエの知らない二人の秘密がたくさんできてしまうかもしれない、ということは少し寂しくはあるけれど。……でも、目の前の作曲家はそのことをちゃんと理解していないみたいで、また「どうして?」と首を傾げるのだ。
「三人の方がも楽しいと僕は思うんだけど、」
「それ本気で言ってる?」
「勿論、君がいないと意味がないよ、クロエ」
 そう言ってラスティカが微笑むと同時に「クロエ! ちょっと来て!」と打ち寄せる波でスカートの裾をびしょ濡れにしてしまった女の子に名前を呼ばれた。
! 服! もう、待って今行くから!」
 苦笑しながらズボンについた砂を払って立ち上がる。服が濡れるのを気にせずしゃがみ込んだ彼女は、「見て見て! 綺麗な貝殻を見つけたの!」と嬉しそうに笑った。