Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

木陰の魔法使い

 涼やかな風が心地良い。フィガロは小さく息を吐いて目を閉じる。たまには外で昼寝も良いものだ。加えて、遠くでミチルと賢者が自分を呼んでいる声が聞こえる度にもっと良い気分になって来る。

 と、周りの草がガサガサと音を立てる「フィガロ?」と己の名前を呼ぶ声は、西の仕立て屋といつも一緒にいるミシンの精霊のものだ。おそらくミチルにフィガロを探すよう頼まれてここまでやってきたのだろう。
「フィガロ、寝ているの?」
声をかけられても、フィガロは喋らない。黙っていたらどこかへ行ってくれないかな、と考えていると、少しだけぴくりと眉が動いたが、彼女の声がする角度からは見えないはずだ。
「寝ているみたいなんだけど、寝ていないみたいで、つまり、これが賢者様の言っていた狸寝入り?」
「……そういうのは気づいても黙っておくものだよ、
バレているのならばずっと寝たふりをしていても仕方がない。目を開けずにそう返事だけするとミシンの精霊は「あら!」と声を上げた。
「やっぱり起きていたのね! 賢者様とミチルが探していたわよ!」
「はは、知ってるよ。うーん、でももう少しだけ寝ていたいな」
「えっ、それじゃあわたし、ちょっと困っちゃう」
精霊が眉を下げたのが気配でわかる。フィガロはほんの少しだけ目を開けて、すう、と手をあげてから、ふわふわと浮かび上がる精霊を視界に捉えた。
「……大丈夫だよ、ミシンの精霊さん。君は俺がここにいたことを忘れてしまうから、君が困ることは何もない。……《ポッシデオ》」

 遠くの方での声が聞こえる。
! フィガロは見つかりましたか?」
「あ、賢者様、……見つけたような、見つけていないような……?」
「……?」
「えっと、ここにはいないみたい! フィガロの部屋をもう一度見てみたらどうかしら?」
フィガロはもう一度目を閉じる。記憶を操作する魔法をミシンの精霊にかけた。が、人間相手に効果を発揮する魔法が、精霊にも適応されたのかは、彼女の口ぶりからはよく分からない。
でもまあ、少なくとも、もうしばらくはここでのんびり昼寝をしていても大丈夫だろうということは確かだ。