「どうしたんだ、その頭は」
ファウストが声をかけると、中庭で日向ぼっこをしていた紳士・ラスティカは嬉しそうに微笑んだ。その頭は色とりどりの髪飾りが揺れている。彼の髪色によく似合っていたが、率直に言ってしまうとその風体はとても珍妙だった。
「こんにちは、ファウスト。素敵でしょう?クロエとが作ってくれたんです」
一つ一つを指差して「このレースのものはクロエが、このたくさんドレープがついているものはが」と説明するラスティカの頭で虹色のリボンがひらひらと揺れている。それをどのような表情で見ていたのかファウスト自身には分からないが、やけに解釈が前向きな西の魔法使いは「そうだ!」と声を上げてポケットを漁り頭のものとよく似た虹色のバレッタを差し出してくる。
「ファウストにも一つ差し上げます」
「いや、僕は」
「遠慮せずに」
「いや、いらない」
「その黒い衣装に映える色ですよ」
「いや、だから」
嗚呼、西の魔法使いというものはどうしてこうも押しが強いのだろう。あれよあれよという間にファウストの頭には虹色のリボンが飾られてしまった。こんな目に合うならば今日も部屋に引きこもっていればよかった。そう思いながらファウストが小さくため息をついたそのとき、見覚えのある大きな影が中庭に現れる。
「……ファウスト様、と、ラスティカ?」
羊を抱えた南の魔法使い・レノックスは珍しい組み合わせですね、と目を細める。と、ラスティカはぱあっと表情を輝かせてファウストの頭の髪飾りを示す。
「ああ、レノックス、見てください。この虹色のリボン、ファウストにぴったりだと思いませんか?」
レノックスは驚いたように何度かパチパチと瞬きをする。ファウスト自身は何も悪いことはしていないはずなのになんだか気まずくなって思わず俯いていると、不意にレノックスが「ふふ、」と笑い声を漏らす。いつもの愛想笑いではない、心の底から思わず漏れ出してしまったかのような声だった。
「……本当だ、よくお似合いです」
穏やかな表情で、羊飼いは目を細める。彼のことだから、お世辞でもなんでもなく本心でこの言葉を口にしているのだろう。ラスティカは「そうでしょう?」と嬉しそうに笑い、ファウストは「勘弁してくれ」とため息をつく。
「君、本当に、すぐそういうことを言うのはやめておいた方が良いぞ」
「貴方にだけですよ」
恥ずかしげもなくそういうことを言うな、と何度言ったらこの男はわかるのだろう。ファウストは彼から目を逸らして再び深々ため息をつく。
「そうだ、こうすればもっと素敵になりますよファウスト。《アモレスト・ヴィエッセ》」
中庭の午後は穏やかだ。気まぐれな西の紳士の呪文で、東の呪い屋の頭上をキラキラした光が舞った。