Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

chapter Two

虹の下の勇者の剣
ショートストーリー(2)

 彼が魔法舎のバーを訪ねてくるのは珍しい。シャイロックは小さく「おやおや」と目を細める。少し不機嫌そうな表情をした北の魔法使い・オーエンはカウンターに腰かけると一切目を合わすことなくオーダーを吐き出す。

「何か出してよ、甘いのが良い」

「畏まりました」

 やんちゃな北の魔法使いも、最強の魔法使いも、胡散臭い南の町医者も、ここに来れば総じてシャイロックの『お客様』だ。和やかに、穏やかに、良い気分になってもらえるように、彼等をもてなすことが店主としての務めである。

 酒をかき混ぜる音と氷の割れる音だけが静かに響いている。目の前の『お客様』が不貞腐れている理由は予想はついている。が、シャイロック自身にはあまり関わりのない話だ。……それでも、彼の表情を変えることくらいはできるだろう、そう思いながら西の魔法使いは虹色のカクテルをオーエンの目の前に置く。

「……これ、」

「クロエたちが着ていた衣装によく似た色でしょう?」

「……嫌がらせ?」

「さて、何のことでしょう」

 シャイロックは知っている。彼のご執心の『騎士様』もこの色の衣装を身に纏い任務に向かったことを。彼は同じ北の魔法使いである眠れない彼が任務について行ったことが少し気に入らないのだということを。だけどそんなことはお互いに口に出さないし、出す必要もないと思っていた。ここは、そのような憂いを口にしなくても許される場所。勿論、口にしたとしても咎める人は誰もいない。

 オーエンは虹色の酒に口をつける。そうして目を伏せて、聞こえるか聞こえないかくらいの声でぽつりと呟いた。

「……甘い、」

 目を伏せて息を吐く北の魔法使いは、どこか子供のようで、どこか儚くて、そしてとても綺麗だ。