自然と調和したこの場所は、今日はよく晴れていて、静かで、穏やかだ。そんな森の中、オズは一人、大きなカラスを追いかけていた。
そもそも、『オズの魔法の剣を探す任務』と言われても、彼はそのようなものが本当にあるのか、と首を傾げることしかできなかった。魔力を持った宝玉の類は全て城に置いてあるはずだから、これといって思い当たる節が無かったのである。とはいえ、賢者やリケやカインが代わる代わるに任務に参加してくれと頼むから仕方がなく付いてきたのである。早急に仕事を終わらせて魔法舎に戻ろう。何故か同行しているミスラも気にくわないし。……と、まあ、その程度の考えで森までやってきたのである。
が、大きなカラスの姿を見て古の魔法使いは目を見開く。そうだ、『アレ』はかつてカラスに盗まれた。キラキラした物を好む生き物だから、宝石のたくさん埋まったそれを魅力的に感じたのであろう。なくなって困るものではないからと探すこともしなかったし、これまでそのようなことは考えもしなかった。が、『アレ』にもしも『オズではない別の誰か』が魔法をかけていたとしたら……。そのようなことをしそうな人物を、オズは一人だけ知っている。それがふと頭をよぎった時、気がつくとオズは一人、黒い鳥を追いかけて森の奥へと足を進めていた。
随分長い間歩いていた気がする。カラスが獲物を狩り、巣に持ち帰ろうと飛び上がる様子を見守っていたオズだが、森の奥深くまで入ると、いつのまにかその黒い鳥を見失ってしまっていた。が、ほんの微かに、『彼』の魔力を感じる。まったく、あの頃の彼の無鉄砲さには手を焼いていたが今またこうしてそのことを改めて実感することになるとは思いもしなかった。
周囲を見渡し、再びカラスを探す。……そういえば、賢者が『剣は虹の出る日に炎を出す』と言っていたような気がする。であれば話は早い。オズは杖を宙に掲げて低い声で呟いた。
「……《ヴォクスノク》」
✂
「ねえねえ、君、人間じゃないよね?」
ムルの不躾な問いに少女は眉を吊り上げた。晶は慌てて「ムル、」と咎めるように声をかけるが、哲学者は気にすることなくふわふわと浮かび上がりながら続ける。
「魔法使いでもないな、そもそも、自然界から生まれた生き物ではない? 面白いね!」
「……だからどうした」
淡々と答える少女は実に不機嫌そうだ。「もう案内するのはやめる」と言われてしまうかと不安になるが、そのよなことはなく、変わらず「置いていくぞ」と言いながらも前を歩いてくれているから晶はほっと息を吐く。そんな彼女の様子を見ながら若い魔法使いたちは興味津々にコソコソと話をしている。
「……やっぱり魔法の剣の精霊、なのかな?」
「そう、なのかな、の呼びかけに応えてくれたし……」
「ああ、それにしても驚いたな。剣の精霊っていうからにはもっと屈強な大男の姿をしているのかと思っていた」
「僕はと同じくらいの大きさなのかと思っていました」
確かに、少女の姿を見た時は晶も驚いた。がこの姿で魔法使いたちと話ができているのはクロエの魔力も多少影響しているらしいというから、目の前の剣の精霊と思われる彼女もオズの魔力の影響でこの姿をしているのだろうか。だとすれば、最強の魔法使いの影響を受けてよりもかなり大きい姿になっていると考えると納得がいく。……それにしても、彼女はアーサーを知っているようだったが、彼とどのような関わりがあるのだろうか。オズの城にアーサーが居た頃に何かが……? そうしてぐるぐると思考を巡らせていると少女はぴたりと歩みを止める。くるりと振り返った彼女に「おい」と呼びかけられ、魔法使いたちは真剣な表情をした。
「お前達が探してるモノはあそこだ」
「え、あそこって、」
「カラスの巣?」