若い魔法使いたちの魔剣探しは難航していた。虹が出ている日に炎を出す剣なのに、そもそも雨雲の気配が一切無いから、雨が降って、上がって、虹が出るまで待たなければならない。気の遠くなるようなはなしだ。てるてる坊主を逆さまにしたら雨が降るだろうか、と思案する晶の横でミスラは横になって目を閉じて、ムルはふわふわと浮かび上がって見慣れない色柄の蝶を捕まえようとしている。どちらも若い魔法使いたちの保護者としての役目は完全に放棄してしまったようだ。そんな長生きの魔法使いたちを他所にヒースクリフは地図を広げ、ルチルは村人から聞き取りしたメモを整理しているから、彼らは本当に頼もしい。
「虹の根本に埋まってる、ということは、虹が出ている日に探しに行かないと意味がない、ということだよね」
「晴れている日に雨が降らないと、」
少し年上の魔法使い達が地図に印をつけていく様子を眺めながら、リケは隣にいたに「は雨乞いとかできるんですか?」と問う。「服ならいくらでも作れるわ!」と的外れな答えを返す精霊は天気を操る力は持っていないようだ。
「僕も教団の人たちの様々な願いを聞いてきましたが、天気を変えたいという願いを聞いたことはなくて……、」
そう言ってリケは眉を下げる。そもそも、そのような願い事をされることがなかったのだろう。そんな幼い魔法使いににルチルは「大丈夫だよ、リケ」と笑顔を向ける。
「前に『虹は魔法じゃない』って教えたでしょう? 天気を変える魔法が使えなくても、私たちにできることはきっとある」
「はい、……でも上手くいくでしょうか?」
上手くいくかどうかはここに居る誰も分からなかった。と、悩しげな彼らの表情とたくさんの印がついた地図を見比べていたヒースクリフが「あの、」と声を上げる。
「そもそも、虹が出ている時に剣を探す必要はあるのかな? 剣がどこにあるか分かれば、虹がなくても調査はできるかもしれない」
「……うーん、確かにヒースの言う通りだね、……ムルは埋まっている剣と話はできないの?」
西の仕立て屋はふわふわと浮いていた哲学者に声をかける。物と会話ができる彼は「そうだなあ、」と思案して空中で足を組み換えた。
「目の前に無い物と会話するのは難しいな、そういうのは俺よりの方が得意だと思う」
「私?」
「うん。おそらく今回の怪異は剣の精霊の仕業。剣の精霊と話ができないかな? 同じ『物の精霊』である君ならできるはずだよ」
なるほど、と魔法使いたちは頷いた。と、しばらくその様子をぼんやり見ていた不意にミスラが「ムル、」と哲学者に声をかける。
「……そこまでわかっているのに、なんで教えてやらなかったんですか?」
「だって誰も俺に聞きに来ないんだもん!」
それに俺は考えている人の顔見るの大好きだし、とムルは心底楽しそうに目を細めた。
✂
森のすぐそばの広場で、クロエの肩からふわりと飛び降りたは耳を澄ます。剣の声がよく聞こえるよう高く飛んだミシンの精霊の姿は、いつもの笑顔からは想像ができないほど神秘的で美しかった。普段賑やかな魔法使いたちも獲物を狙うときの猫のように静かになって、固唾を呑んで彼女をを見守っている。風が吹く。長いスカートがはためく。そうして魔法使いたちに見守られた精霊は、不意にハッと目を見開く。
「……聞こえた!」
「本当に!? 剣はなんて言ってる!?」
「……オズ、と、……炎?それから、ううん、声が遠くなっていっちゃう」
が困ったように眉を下げる。と、その時、ゴッと大きな音を立てて強い風が吹いた。風は止むこと無く広場の周りのものを吹き飛ばしていく。
「賢者様! ! 俺の手を掴んで!」
声をかけられて咄嗟にクロエの手を掴んだ。風が吹き荒れる。暖かい風、というよりも熱風に近かった。竜巻のようにくるくると回りながら辺りの落ち葉を巻き上げて、飛ばされてしまう、と思った瞬間ピタリと止まる。そうして風が収まり、目を開けると、目の前に細身の少女が佇んでいた。
「お前たち、何の用だ」
風の中から急に現れた少女は、驚く賢者の魔法使いたちを威嚇するように睨みつけ、低い声で告げる。
「お前たち魔法使いだろう? 虹の根本の剣を探すのはやめておいた方が良い」
「急に現れて何なんだ? 俺たちはあれを探すよう依頼されている。元はオズの魔剣なんだろう?」
「あれは魔剣なんかじゃない、あれは、」
カインに問いかけられ、少女は言い澱み目を逸らす。それを横目で一瞥したミスラは深いため息をつき「『魔剣じゃない』、ですか、」と呟いた。
「村人が勝手に『オズの呪いがかかった魔剣に違いない』と言っていただけですし、確かに本物の魔剣ではない可能性は十分に有り得ますね。俺もこの辺りからオズの魔力を感じ取れませんし」
「なるほど……?」
「確かに……?」
ミスラの言葉に若い魔法使いたちは混乱しながらも頷く。目の前の少女が何者か、というのも気になるが、『魔剣』探しが最優先だ。そもそもここにあるものが魔剣でないのならば色々振り出しに戻ってしまう。もう一度、探す方法を考えなければ。晶と同じことを考えていたのか、カインも自らの頭をくしゃくしゃにかき回し小さくため息をつく。
「……それにしてもオズの呪い、か。アーサーが居たら『オズ様がそんなことするわけありません!』って言うんだろうな」
「……アーサー、……そうだ、どちらかといえばそっちに近いかもしれません」
「え、ミスラさん、『そっちに近い』って?」
ミスラがルチルの問いに答える前に目の前の少女がバッと顔を上げ「おい!」とミスラの手を掴む。
「アーサーを知っているのか?」
「なんなんですか、この子供、殺していいですか?」
「だ、ダメですよミスラ! あの、アーサーは賢者の魔法使いの一人で、」
「そうか、アーサーの知り合いなら話は別だ、付いて来い」
有無を言わさぬ様子で少女は森の奥へと魔法使いたちを導く。少し不安そうな表情をしていた彼らだが、思わぬ方向に調査が一歩前進したことは確かだ。