Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

chapter Two

虹の下の勇者の剣 #02

 談話室に集まった若い魔法使いたちは見るからにウキウキと楽しそうにしていた。伝説の魔法の剣だなんて書類を見るまでを知らなかった晶でもワクワクするのに、小さい頃からおとぎ話を聞かされて育った彼らに撮ってはその感慨はひとしおだろう。

「虹が出る時だけ地面から炎が吹き出るだなんて、」

「カイン、僕もついて行きたいです。行っても良いですか?」

「勿論だ、リケ。不思議だろ? 大昔の魔剣が虹の根本に埋まっているに違いない、と俺は思っている」

 感心したような声を漏らすリケとルチルにカインはうんうんと頷く。と、いつのまにか部屋から出てきていたミスラがルチルが手にしていた書類を覗き込んで心底嫌そうに眉間にシワを寄せた。

「は? あなたもその魔剣、探しに行く気なんですか?」

「えっ、ダメですかミスラさん、」

「ダメですよ、あなた最近無鉄砲すぎです」

「大丈夫です! きっと私たちが剣を見つけてみせますよ!」

「それは俺の中で大丈夫には入らないんです」

 やれやれ、と首を左右に振るミスラに、ルチルは「もう」と頬を膨らませる。

「そんなに言うなら前みたいにミスラさんもついてくれば良いじゃないですか」

「嫌ですよ、ここにいる魔法使い達全員で行くんでしょう? 一人で子守だなんてまっぴらごめんです」

 長い時を生きているミスラにとってここにいる十代二十代の魔法使いたちの面倒を見るのは『子守』でしかないだろう、ということはすぐに分かったが、分かったからといってそのまま黙っている彼らではない。リケが「子守の必要などありません!」と声を上げると、ミスラは「うるさいですね、」とわざとらしく耳を塞いだ。

「あの、オズも居るので長生きの魔法使いがミスラ一人というわけでは……」

「は? オズも居るんですか? 尚更嫌ですよ、俺と、あとルチルは不参加です」

「ちょっとミスラさん!」

 今にも一触即発、という空気が流れ始めたその時、「じゃあ、大人の魔法使いがもう一人いれば問題ないね」と楽しそうな声が上から降ってきた。

「ムル! いつから聞いていたの?」

「最初からだよ! 俺もその虹の魔剣探しについて行く。なんといっても、俺も相当長生きの魔法使いらしいしね」

 そう言ってムルは空中でクルクルと回る。その様子を見ていたミスラは面倒くさそうにため息をついて「……まあ、それなら許してやらなくもないです」と渋々と言った様子で頷いた。「やったあ! 一緒に行ける!」とクロエとルチルは楽しそうに手を取り合う。

「……大丈夫かしら、ムルは大人の魔法使いだけど、なんというか、その、ええと」

「ああ、普通じゃないな、ムルは」

 所謂『普通の魔法使い』が何なのかはよく分からないけれど、とカインとは目を合わせ苦笑する。

「うーん、でもミスラが良いなら良いんじゃないですか? ルチルも嬉しそうですし」

「はは、賢者様ってこういうところ強かだよな」

「私は好きよ、賢者さまのこういうところ」

 カインに肩を組まれ、に頭の上に乗られて、晶は笑う。「じゃあ、買ってきた布でみんなの衣装を作るね! も手伝って!」とクロエが声を上げると、ミシンの精霊は「もちろん! 任せて!」と飛び上がってくるくる回った。

 エレベーターの前には賑やかな魔法使いたちが集合していた。眠そうなミスラの手をルチルが、不機嫌そうなオズの手をリケが引いているから、どちらが引率する側なのかいまいちよく分からなくなってしまっていて晶は苦笑する。

「アーサー様はお忙しいから僕たちが頑張らなくちゃ、ね、オズ」

「……好きにしろ」

 わいわいと話をしながら、揃ってミスラの作った通り道をくぐる。本人は「俺がオズにこれを使わせると思ってるんですか?」と不機嫌そうな顔をしていたが、ルチルが上手いこと言いくるめたようだ。

 辿り着いたのは静かな森の入り口だった。遠くの方にぽつりぽつりと民家が並んでいる。辺りに人はいないかとキョロキョロ探していると、オズと何やら話をしていたリケがトコトコとこちらに近寄ってきてそっと晶の手をとった。

「賢者様、オズは頼りにならないから僕たちでなんとかしましょう」

「リケ、またオズと喧嘩したのか?」

「あれ、喧嘩なんだ……」

 拗ねてしまったリケの頭をカインが撫でようとして振り払われる。その様子を見たクロエが興味深そうな声を漏らすのが何だか面白くて、晶とは目を合わせて笑ってしまった。

「大丈夫だって、心配しなくてもなんだかんだオズは協力してくれるさ、なあオズ、……あれ、オズ?」

「あれ、さっきまでここにいたはずなんだけど……」

 ヒースクリフが示した方にはムル一人しか残されていない。視線を集めた西の哲学者は楽しそうに笑って空中を一回転した。

「オズなら一人で先に行っちゃった! 用事があるのかな?」

「ええっ!?」

「見てたなら止めてよムル!」

 ムル以外の全員が目を離した隙にオズは黙って一人で何処かへ行ってしまったようで、辺りを探してもその姿は一切見えなかった。魔法で動物に姿を変えているのだろうか。だとしたら、探すのは容易ではないだろう。ミスラはやれやれ、とため息をつき「それは都合が良い。殺気をむけられている気がしてどうもやり辛かったんですよ」と肩を竦めた。

 結果的に、オズはみんなのそばを離れて正解だったかもしれない。詳しい話を聞いた現場の近くの村人たちからの魔剣の元の持ち主・魔王オズへの評価は散々なものだった。それはもう、先程までオズにぽこぽこ腹を立てていたリケまで「オズ、同情します、」と眉を下げるほど。

「でも、困りましたね。オズなら魔法で剣を探してくれるかも、と思っていたのですが……」

 晶が頭を抱えるとクロエが「大丈夫だよ、賢者様!」と元気付けるように声を上げる。

「虹が出てる時に剣を探さなきゃいけないんだよな、そうタイミング良く虹って出るものなのかな」

「賢者様に前に教えてもらったてるてるぼうずを使えばなんとかなりますかね、」

「うーん、あれは根拠のないおまじない的なものなので、効果があるかどうかはなんとも……」

 カインとヒースクリフの疑問に晶が首を捻っていると、眠そうな声がこちらに問いかけてくる。

「てる……? 食べられるんですか、それ」

「もうミスラさん、食べ物じゃありませんよ」

 ミスラのとぼけた発言にルチルが眉を下げてクスクス笑う。そんな魔法使いたちを見て、虹色の衣装を翻してクロエは前を向いた。

「虹がなければ作ればいいんだよ、絵を描くみたいに、時計や服を作るみたいに、きっと俺たちならなんだって作れるよ!」