Vivaceかがり縫いのヴィヴァーチェ
since.2020.03.30

chapter Two

虹の下の勇者の剣 #01

 晶が小さく唸り声を上げながら積み上げられた大量の書類と睨めっこしていると、西の仕立て屋クロエとそのミシンの精霊が談話室を訪れた。

「こんにちは、賢者様。あの、大丈夫? お茶淹れて来たんだけど、飲む?」

「クロエ、! こんにちは! ごめんなさい、テーブル占領しちゃってて……」

 書類を片付けようと立ち上がりかけると、ミシンの精霊はふわりと浮かび上がり、静止するように晶の膝の上に降り立つ。

「大丈夫よ、賢者さま! ポットとカップはカウチの上でも喜んでくれると思うわ。わたしは……ええと、その肘掛けにお邪魔しても良いかしら?」

「あ、はい! もちろん、良いですよ。どうぞ、」

 やったあ! とウキウキした表情でふわふわの肘掛けに座るミシンの精霊を眺めていると、少し肩の力が抜ける。そんなと晶を交互に見たクロエは「やっぱり賢者様、疲れてたみたい」と少し眉を下げ苦笑した。

「え、やっぱりって?」

「さっきキッチンに飲み物を取りに行ったらネロに言われたんだ、賢者様も朝からずっと仕事をしているみたいだから、一緒にお茶して息抜きでもしたら、って」

「あはは、なるほど。じゃあそろそろ休憩にしようかな」

 料理上手な東の魔法使いは優しい。きっと、自分が声をかけても気を使ってしまうだろうかとか、仕事の邪魔をしてしまわないだろうか、とか、色々考えてしまうのだろう。ここにいるクロエもそうだ。遅く起きた朝の食事も、休憩のお茶の時間も、人を誘うのはちょっとだけ勇気がいる。少なくとも晶はそうだ。それでも、一歩を踏み出して手を差し伸べてくれる賢者の魔法使いたちのことが好きだ。

「賢者さまは、依頼の整理をしていたの?」

「そうなんです。それぞれ皆さんに合った依頼をお願いしたいのですが、依頼の数が偏ったり、時間のかかるものばかり任せてしまったらいけないと思うとなかなか難しくて……、あ、クロエとは今日はお休みですけどなにをしていたんですか?」

 晶がそう聞くと二人はよくぞ聞いてくれました、と言うようにぱあっと顔を輝かせる。そうして「みてみて、賢者さま!」と後ろを振り返ったミシンの精霊の髪の毛には丁寧に装飾されたカラフルな髪飾りがついていた。

「虹色の布と糸が手に入ったから小物をたくさん作っていたの。これは、クロエが作ってくれたのよ! いま賢者様が使っているコースターは私が!」

「試し縫いで色々作ってみたから賢者様にも見て欲しかったんだ!」

「次はクロエが水を弾く魔法を使ってレインコートも作るつもりなの。着ているものが鮮やかな色だと、雨の日でも楽しいと思うの」

 確かに、カウチに置かれたトレイの上にもの髪飾りと同じ色合いのコースターが乗っている。白地をいくつもの色で染められた布はまさに虹のようで、なんだか見ているだけで楽しい気分になってくる。とはいっても決して品のない色というわけではなく、むしろその儚げな色彩の七色は貴族が纏う衣のように涼やかに小物たちを彩っていた。

「虹といえば……、そのレインコートにぴったりな任務がありますよ」

 テーブルの上の書類をガサガサと漁る。印とメモ書きを残しているから、全てこの世界の文字で書かれていても目的のものはすぐに見つかった。書類を覗き込んできたクロエが「封印されている魔法の剣を探して欲しい?」と概要を読み上げる。オズの城から持ち出されたと噂されているその剣は、近頃は虹が出ると空高くに炎を吹き上げるため、近くの村の人々に恐れられているらしい。

「そもそも、本当にオズのものか、真偽が分からないので本人にも同行してもらおうと思ってはいるのですが……クロエも引き受けてくれますか?」

「オズの、魔剣……」

 クロエが小さく呟くと、いつの間にか談話室にやってきていた魔法使いが「へえ、魔法の剣か! 面白いな!」と声を上げる。中央の魔法使い・カインは、隣に居る東の魔法使い・ヒースクリフに「会いている席はどこだ?」と聞いてからソファーに腰を下ろした。

「俺も昔、似たような話をおとぎ話として聞いたことがあるな、懐かしい」

「俺もです。形は少し違う気もしますけど、似たような話が色んな国で伝わっているみたいですね」

「カイン! ヒース!」

「盗み聞きしてしまったみたいになってすまない、クロエと賢者様、とか?」

「そうだよ」

 晶とクロエはカインにハイタッチして、はふんわりと彼の肩に乗る。

「伝説の魔剣探し、なんだか面白そうだな、俺も参加しても良いか? 賢者様、」

「あの、俺も。おとぎ話に出てくる宝物に出会えるなんて、なんだかワクワクします」

「勿論です、カイン、ヒース。よろしくお願いしますね」

 晶が微笑むと魔法使いたちは力強く頷く。優しい彼らには、空に浮かぶ虹色がよく似合う。今回の任務も賑やかになりそうだ。