南の花売り

※ 夢主≠賢者です ※

 穏やかな初夏の風が吹く頃、ルチルが「母様の古い知り合いの方と仲良くなったんです」と連絡をくれた。私はチレッタのことを友人としてとても好きだったけれど、南の国で母親をしている彼女のことしか知らなかったから、彼女の過去を知る人と話がしたいと常々思っていたし、「そういう人にあったら私にも紹介してね」とルチルにお願いしていた。

「今度母様の墓参りに一緒に行くことになっているんです、そのときに連れてきますね」

 それからしばらくして、ルチルとミチルがチレッタの知り合いなのだという魔法使いを私が営む花屋に連れてきた。少し独特な雰囲気だが、兄弟が信頼しているようだから悪い人ではないのだろう。

「貴方がミスラさんね、はじめまして」

 そう言いつつ私は花束を差し出す。優しく明るい彼女によく似合う花だ。彼女の墓前に備えて欲しいという気持ちで渡したそれを、目の前の赤毛の魔法使いは「どうも」と受け取り、そして花弁をわし摑みにし、おもむろに口に含んだ。……口に含んだ?

「えっ、今、食べ……!?」

「もうミスラさん! ダメじゃないですか、お花食べたら!」

「やっぱり草はあまり好きじゃないです」

 目を白黒させる私にルチルが「ごめんなさい! ミスラさんはちょっとぼんやりさんで……、」と慌てて謝り、ミチルは「兄様! だから北の魔法使いを連れて行くのはやめておこうと言ったんです!」と眉間にシワを寄せている。そんな二人を他所に、赤毛の彼は「退屈な街ですね」と辺りをキョロキョロ見回しているから、私はもうなんと言ったらいいのかわからない。

 嗚呼チレッタ、貴女ならこんな時どうするのかしら。

 私は頭を抱えて、ミスラの手に握られた花束の残骸と、彼のうっすらクマの浮かんだ顔を交互に見た。