真夜中図書館

※ 夢主≠賢者です ※

 彼の店に訪れる魔女の2割……いや5割くらいは、彼のことが好きだと思う。魔女だけでなく魔法使いの中にもそんな人がいるかもしれない。勿論、『恋をしている』と言う意味の『好き』だ。この店の店主は、紳士的で、聞き上手で、物腰柔らかで、賢く、魔力もかなり強い。魅力的だと私も思う。
 そんな魔女たちは店主の居るカウンターやそこからできる限り近い席に座っていたが、私がこの店に来る時はなるべくカウンターから遠い席を選んでいた。なんだか、魔女たちの話を聞いていると、彼の声を近くで聴いていると、彼の瞳を頻繁に見ていると、私まで恋の熱に浮かされてしまいそうな気がして。感染源からはできる限り離れていたい。
 それでも、この店を定期的に訪れるのは単純に酒が美味いからだ。喧騒の中、グラスを揺らしながら本を読むのが好きだ。静かな場所の方が読書には向いてるだろう、と言われるが、私は賑やかな方が目の前の文字の羅列に集中できる気がする。
「今日も読書ですか?」
 私がいつもの席に座りページを開くとそう言って店主・シャイロックは目を細め声をかけてくる。私は本から目線だけを上げて、「リンゴのやつ、ロックで」とコインを数枚差し出す。彼とする会話はいつもそれだけだ。

 その日は珍しく、お客は私一人だった。いつも店主となにやら難しい話をしている学者のムルもいない。首を傾げながらも店に入る私を見て彼はクスクスと笑う。
「本当は今日は開けるつもりはなかったんですよ、」
 そう言ってシャイロックは『今日は店内清掃のため休業』との看板を指差した。
「思ったより早く掃除が終わったと思っていたら、丁度良いタイミングで貴方の姿が見えたので、」
 私が何も言えず戸惑っている様子を察したのか、店主はカウンターの一番彼に近い席を指し示す。
「帰らないでくださいね、一度近くでお話がしてみたかったんです、貴方と、」
 そう言って目を細める西の魔法使いはとても綺麗だ。
 できる限り遠くへ座っていた、できる限り声を聞かないようにしていた、できる限り目を見ないようにしていた、それでも、脳裏に焼き付いて離れないこの人の仕草が・言葉が・目の色が。……嗚呼、
「夢なら醒めて欲しい……」‬
 思わず声に出してしまった言葉は、彼には聞こえていないと信じたい。