空はよく晴れていて、心地よい風が吹いている。スペインは何をするわけでもなく、ただぼうっと自分の育てているトマト畑を眺めていた。目の前を、蝶々が横切る。ふわわ、と大きなあくびをすると「スペイン、動かないで」と鋭い声が耳に飛び込んできた。だ。画家を目指しているのだという彼女は時折スケッチブックを持って、スペインの畑にやってきて、トマトや、オリーブや、スペイン自身を描いている。今日も真剣そうな目をして鉛筆を素早く動かしていた。動くな、と言われたということは、本日のモデルはスペインなのだろう。だがしかし、ずっと動かずにそこに居るのは流石のスペインでも少し辛い。だが「欠伸したいし、鼻の頭も痒いんやけど…」と困ったように訴えると「死ぬ気で我慢しろ。」ときつくにらまれた。理不尽だ。
「なぁ、、」
痒い鼻の頭を我慢しながら名前を呼ぶとは「何?」と手を止めずに返事をする。美しく線を描くそれはまるでダンスを踊っているようだ、とスペインは思った。だからこそ、というわけではないが、彼は疑問を抱いた。果たして彼女は自分などを描いていて、楽しいのだろうか。その疑問を、そのまま口にすると、彼女は訳がわからないというような顔をして「何でそんなこと聞くの?」と、逆に聞き返してきた。
「だって…、俺なんかトマト作っとるばっかりやし、泥だらけで汚いやん。せやから、フランスやオーストリアみたいな綺麗なヤツ描いた方がも楽しいんやないかと思ったんやけど…」
そこまで言っての顔を見ると、彼女は呆れたようにため息をついて「分かってないなぁ、スペインは。」と呟いた。
「確かに君は口を開いても閉じていてもトマトばっかりだし、畑仕事で泥だらけだ。」
彼女の一つ一つの言葉がどんどん心にぶつかってくる。まるで、自国の有名な祭りで投げられるトマトみたいだとぼんやり思った。地味に痛い。「そんなにはっきり言わんでもええやん」と小さく呟くと、はくすりとわらって「でもね」と鉛筆の持ちすぎでタコができてしまった小さな手でスペインの手をとった。
「君のその瞳、私は世界一綺麗だと思うよ。」
「…」
いたずらっこみたいな顔をしたの頭をなでて「男前やなぁ」と笑うと「そりゃどうも」と彼女もにっこり笑った。
古くからの友人がスペインの家に遊びに来た。彼・フランスは、客間にあるいくつかの絵画を見ながら「ここも大分華やかになったな。」とどこか嬉しそうに言った。
「せやろ?全部が描いてくれてんねん。」
フランスは「ふうん、」と呟いてもう一度、部屋全体を見渡し、そして一枚の絵に目を止めた。
「それにしても、は相当お前のことが好きなんだなぁ。」
「えっ、」
「絵を見りゃ分かるよ。お前を描いてる絵だけ、なんかキラキラしてるもん。」
