ぎらぎら照る付ける太陽の下で、わたしは吐き捨てるように言った。いや、実際には太陽と私の間には壁がある。さらに言えばその壁は、ピンク色のウサギの形をしていた。
「どないなことも、こないなこともあらへん。俺のバイトしとる姿見たいって言うたのはやろ?」
「言いました、ええ、言いましたとも。だからってなんで私までチラシ配りの手伝いしなくちゃならないの!」
まぁ、つまるところ、この関西弁の阿呆……ことアントーニョのバイトを見学に来た私はあれよあれよという間にウサギの着ぐるみを着せられて、大量のチラシの束を持たされて、「それじゃあよろしくね、ちゃん」とアントーニョの上司に肩を叩かれいろいろとしくじったことに気づいた
「郷に入っては郷に従えって言うやろ?それに、二人でやったほうが早く終わるでー」
そう言ってぶさかわいいとしか言いようがないくまちゃんの着ぐるみ越しにアントーニョは言う。「そういう問題じゃない!」とこれまたきもかわいいウサギちゃん越しに私は叫んだ。
「これ、あんたのバイトでしょう!?それに、このきぐるみ臭い!暑い!動きづらい!」
「しゃぁないやん。学校にバイトばれたら停学やねんもん。」
なるほど、だから着ぐるみ着てバイトしてるのか…って、そうじゃなくて!!
「じゃあバイトすんなよ!そして、私を巻き込むなよ!バカヤロー!コノヤロー!」
「せやかて、バイトせんかったら生活成り立たへんもん。っていうか、ロヴィの真似なんかなんなんか知らんけど、バカって言わんといて!せめてアホにしたって!」
くまちゃんの頭が落ちるんじゃないかというほど大きく首を左右に振ってアントーニョが言うが、そんなの知ったこっちゃない。それに、バカもアホもどっちもそんなに変わらないじゃないか。と、いう気持ちを込めた私の…いや、ウサギの視線に気がついたのかいないのか、彼は「バカとアホには、大きな差があるで!」と頬を膨らませた…ようだ。くまちゃんによって表情が隠されているから全くわからない。
「なぁ、、知っとるか?"バ行"や"カ行"ってけっこうどぎづいアクセントなんやで。」
「へぇ、」
「それに比べて"ア行"や"ハ行"はやさしーいんや。」
「だから、バカよりアホのほうが優しいイメージやろ?」と首を傾げたアントーニョがにっこり笑ったのが雰囲気で分かる。顔は全く見えないのに、不思議。丸め込まれたことが悔しくて、私は「だからどうした。」と相手に見えない唇を尖らせた。
「アントーニョのバーカ」
「ちょ、言うたそばから……」
「うっさい。っていうか、さっきから全然チラシ減って無いじゃん!終わるものも終わらねえよ!!」
私の言葉にくまちゃんは、はっ、としたように額に手をやる。
「あああ!あかん!今日中にこれ全部配り終わらないかんのに!」
「え!?まじで!?こんなくだらない話してる場合じゃないよね?!何やってんの!」
ばーか!ばーか!アントーニョのばーか!
大声で私が叫ぶとアントーニョ頭を抱えて唸る。
「せやかて、と仕事することなんてきっとこれが最初で最後やから、いっぱい話しとかんと……ああああ、オレはどうすればいいんや!」
「くだらないこと言ってないでさっさと手を動かしやがれアホトーニョ・ペドナンデス・カリエロ!」
「人の名前で遊ばんといて!!」
自分たちのことに夢中になっていて、周りの注目を集めていることに全く気づかなかった。「あのうさぎさんとくまさん喧嘩してるよー」というどこかのだれかの声に我に返る。だめだよ、だめだよ!こんなぶさかわいいくまちゃんときもかわいいウサギちゃんなんか見てはいけません!
「…なぁ、ウサギちゃん、」
アントーニョ、いや、くまちゃんがゆっくりと声をかけてきた。私はそちらを見ずに「なんですかくまちゃん、」とつっけんどんに返す。
「頼む、帰りにアイス奢ったるから、チラシ配り協力したって!」
そう言ってアントーニョは手を合わせながら頭を下げた。そんな彼を見て、私は思わず苦笑いする。いつもそう、結局私はこの男言うことを聞いてしまうのだ。
野生の兎が熊に逆らえないように。
だから、せめてもの抵抗に、ウサギちゃんは小さいけれど大きな見返りを要求するのだ。
「仕方ないなぁ、ハーゲンダッツ買ってくれるなら手伝ってあげるよ。」
「な、ちょ、勘弁したって!俺が貧乏なの知っとるやろ!」
着ぐるみの中の彼の慌てる顔が目に浮かんで、思わず頬が緩んだ。