小狐丸が縁側に足を向けると、名前は団扇で自分自身を扇ぎながらじわじわと太陽が照り付ける庭先を眺めていた。
庭で花や草木の世話をするのが好きな彼女だが、この暑さのせいで身体の水分が奪われてしまったらしい。今剣が花壇の傍で倒れている彼女を見かけたときは、いつも静かな本丸は上へ下への大騒ぎだった。急いで水を飲ませて塩分を取らせたため、すぐに動けるまで回復したものの、今日は一日外に出ないようにと石切丸からきつく言われているのを先程見たばかりだ。
うらめしそうに風で揺れる向日葵を見る主を可哀想に思うが、また倒れてしまっては小狐丸も心臓がいくつあっても足りない。
「ぬしさま、」と呼びながら隣に腰掛け手に持つ硝子の杯を差し出すと、彼女はゆっくりと小狐丸の方を見る。何時もは小狐丸が呼ぶと柔らかい微笑みを見せる彼女だが、今日は頬を膨らませて不機嫌そうな表情をしている。普段、実際の年齢よりも随分と年上に見える彼女だが、このような顔をしていると本当に子供なのだと改めて実感する。
硝子の器を受け取った主は、反対の手で小狐丸の白い髪の毛に触れて、その一房をくるくると指に巻きつける。彼女が何かを紛らわすように何も言わずそうしているから、小狐丸もされるがままになるしかない。しばらくただ黙って見ていると、ふと彼女は手を止めて「退屈、」と小さな声でぽつり呟いた。
「もう暫くすれば夕餉になります故、それまで我慢してくださいませ、ぬしさま。」
「鳳仙花にまだ水をあげていないの。水撒きをしないと枯れてしまいます。」
「あとで私が代わりに参ります故…」
植物の水遣りには気が回るのに、自分自身の摂取する水分に関してはそうはいかないのか、と苦笑いする。「絶対ですよ、」と強く言う彼女の頭を撫でると少し湿っていて、子供はこんなにもすぐ汗をかくのかと驚く。主の傍に置かれた団扇を手に取り風を送ると彼女は涼しげに眼を細めた。
「明日は畑に参りましょう。茄子や胡瓜が収穫できますよ。」
「石切丸さんが許してくれるでしょうか…」
小狐丸が誘うと、親に叱られた子供の用に目を伏せる彼女を見て思わず笑ってしまう。
「帽子も被って行けば、石切丸も止めはしないでしょう。」
「小狐丸ちゃんも来てくれますか?」
「勿論ですよ。」
小狐丸が頷くと、ようやく彼女はいつものように微笑んだ。
カランと音を立てて麦茶の中の氷が解ける。また倒れては明日畑に行けませんよとその琥珀色を口にするように促すと、彼女は素直に頷き杯を口に付けた。
「さてぬしさま、お外に出られないのであれば、小狐丸と別のことをして遊びましょうか。」
そう言って小狐丸が手に持ったままの団扇を軽く降ると、ふわりと大きな風が起こる。ちりりんと鳴った風鈴の音に、名前は驚いたように目を見開いた。