小狐丸という太刀は、大変珍しい刀で、霊力が強い者でないと扱えない代物、らしい。
らしい、というのは、名前が最初に鍛刀した刀が小狐丸であるから、ほかの刀と比べてどうこうということがなかったからだ。
小狐丸を鍛刀してしばらくは他の刀を鍛刀することができなかったが、それも己の霊力の弱さと力不足故だと思っていた。
ほかの本丸の『小狐丸』がどのようにして鍛刀されたものであるのか、名前は知らない。
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演練相手の審神者の本丸には小狐丸はいなかった。相手の審神者は名前の従える黄色い狐をもの珍しそうに一瞥したが、何も言わず、そのまま滞りなく演練は終わった。
上からの通達で、本丸同士の演練が終わった後は本部にその日の使用した刀の種類・練度・勝敗の結果等の記録を送ることになっている。相手の本丸の彼は名前の戦績を一瞥した後フンと鼻で笑い、用紙に署名をした。
「小狐丸も哀れだな。貴様のような満足に扱えぬ子どもに鍛刀されては思うように力も発揮できまい。」
相手の審神者は吐き捨てるようにそれだけ言い放ち、記録用紙を名前に手渡した後、その場からスタスタと立ち去って行った。
その年齢で扱いにくい小狐丸をよく扱っていると賛辞の言葉をかけられることが多い名前だが、その言葉の裏で『力不足』『不相応だ』『身の程を知れ』と思われていることは手に取るようにわかる。
だが、直接そのように言われたことは初めてだ。ただの妬みだ、とわかってはいたが、何も言い返せなかった。何も考えることが、できなかった。
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あまり考えないようにしていたとはいえ、こうもはっきり自分の扱う太刀が不相応だといわれてしまうと、多少のことでは落ち込まない名前も流石に下を向きため息をついてしまう。
「ぬしさま?」
後ろから聞き覚えのある声に呼ばれる。名前の戻りが遅いので近侍である小狐丸が心配して声をかけに来たようだ。顔を上げ、振りむいた名前の顔を見て、狐は驚いたような表情になる。
「泣いておられるのですかぬしさま、」
「大丈夫ですよ、小狐丸ちゃん。ちょっと…目に塵が入ったみたいです。」
笑おうとしたが、うまく笑えていないのが自分でもわかる。隠し事が下手だとよく言われるが、それでは周りに余計気を使わせるだけだ。もう顔を合わせてしまった小狐丸は仕方がないが、せめてきちんといつも通りの表情ができるようになってから、ほかの刀剣たちと向き合いたい。
そんな彼女の思いに気付いているのかいないのか、小狐丸はそっと名前の手をとり、己の方に引きよせた。
「ぬしさまは泣き顔も可愛らしいが、笑ったほうがもっと良いと思いますよ。」
「…うん。」
「ですから、泣くのはこの小狐の前だけにしておいてください。」
そう言って狐は優しく名前の髪の毛を撫でる。誰のせいで泣いているのか知りもしないくせに、という言葉は飲み込んだ。彼には自分が涙を落とす理由を、知られたくない、知らなくていい。口を開く代わりに、その大きな手にすり寄るように頭を傾けた。